キーワード:
層状結晶/粘土鉱物/酸化グラフェン/層状複水酸化物/カルコゲナイド/MXene/複合材料/MOF/剥離/インターカレーション/界面/相互作用/配向制御/電極/触媒/光機能/センシング/薄膜/抗菌性/生体/電子顕微鏡観察
刊行にあたって
無機層状結晶の研究は,古くは雲母や黒鉛などの天然物に始まった。その後,層状リン酸ジルコニウム,層状ペロブスカイト,層状複水酸化物,層状カルコゲナイド,層状遷移金属酸素酸塩,層状粘土鉱物などの合成や,これらの無機層状結晶層間にゲスト種を挿入(インターカレーション)した層間化合物の化学などを中心に発展してきた。1985年にはこのような研究をまとめた書籍である『層間化合物の開発と応用』(加藤忠蔵・黒田一幸編,シーエムシー出版)が刊行された。その後,層状結晶を無限膨潤させ単層にまで剥離した「ナノシート」が,さまざまなナノ材料を構築するためのナノビルディングユニットとして注目され,その研究は大きく発展した。2005年には『無機ナノシートの科学と応用』(黒田一幸・佐々木高義監修,シーエムシー出版),2010年には『機能性粘土素材の最新動向』(小川誠監修,シーエムシー出版)が刊行されている。その後の研究発展はさらに著しく,グラフェンナノシートの研究が2010年にノーベル物理学賞を受賞したことも相まって,ナノシート研究は異分野にまで大きく広がり,機能・応用に関する研究も含めて爆発的に広がっている。
しかし,研究の広がりとともに,ナノシートという言葉の定義も拡張している。元来,無機層状結晶を剥離した単層シートがナノシートと呼ばれたが,最近では単層にまで剥離せず複数層が積層したままのものも「ナノシート」と呼ばれている。一方,層状結晶を剥離するトップダウン手法だけではなく,ボトムアップ手法でナノシートを得る方法も多数開発され,さらには層状結晶とは関連のない,金属,超分子,有機物のナノシートも多数登場している。このような発展は好ましいことではあるが,混同して混乱を招く場面も少なくないと思われる。
本書は,以前に刊行された関連書籍の流れを踏まえつつ,ナノシートや層状結晶の新しい合成手法,ナノシートを精密に集積する方法,さらにこれらの機能と応用までを包括する内容とした。ナノシート・層状結晶の基礎・応用研究にすでに係わっている学生・研究者・企業関係者はもとより,これまで馴染みのなかったナノシートを製品開発に利用したい企業や,ナノシートを利用した異分野コラボレーション研究を企画する研究者にとっての一助になれば幸いである。
本書「はじめに」
著者一覧
佐々木高義 (国研)物質・材料研究機構
岡田友彦 信州大学
谷口貴章 (国研)物質・材料研究機構
馬 仁志 (国研)物質・材料研究機構
仁科勇太 岡山大学
緒明佑哉 慶應義塾大学
内田幸明 大阪大学
山本瑛祐 名古屋大学
長田 実 名古屋大学
村松佳祐 信州大学
黒田義之 横浜国立大学
牧浦理恵 大阪公立大学
上沼駿太郎 (国研)物質・材料研究機構
伊藤耕三 東京大学;(国研)物質材料研究機構
毛利恵美子 九州工業大学
中戸晃之 九州工業大学
佐野航季 信州大学
加藤利喜 岡山大学
鈴木康孝 山口大学
坂井伸行 (国研)物質・材料研究機構
井出裕介 (国研)物質・材料研究機構;横浜国立大学
津野地 直 鳥取大学
秀島 翔 東京都市大学
杉本 渉 信州大学
畠山一翔 熊本大学
伊田進太郎 熊本大学
田原誼紀 東京都立大学
高木慎介 東京都立大学
笹井 亮 島根大学
山口哲生 関西学院大学
小川 誠 信州大学
敷中一洋 (国研)産業技術総合研究所
Jung Jooho 長崎大学
吉田衣里 長崎大学
鎌田 海 長崎大学
會澤純雄 岩手大学
石田洋平 九州大学
目次 + クリックで目次を表示
1 はじめに
2 層状結晶とインターカレーション
3 ナノシートと積層ナノシート
4 ナノシートと層状結晶の合成
5 機能と応用
第2章 層状結晶とナノシートの合成
1 粘土鉱物ナノシートの合成
1.1 はじめに
1.1.1 粘土とナノシート
1.1.2 粘土を得るには
1.2 粘土鉱物ナノシート合成
1.2.1 概説
1.2.2 沈殿法
1.2.3 水熱反応
1.2.4 固相反応
1.3 おわりに
2 遷移金属酸化物ナノシートの合成
3 LDHナノシートの合成
3.1 はじめに
3.2 LDHの合成及び単層剥離
3.3 LDHナノシートを用いた触媒開発
3.4 おわりに
4 グラフェン系ナノシートの合成
4.1 はじめに
4.2 酸化グラフェンの合成
4.2.1 化学的酸化:Brodie法
4.2.2 化学的酸化:Hummers法
4.2.3 電気化学的酸化
4.2.4 GOの製法と物性
4.3 黒鉛の直接剥離
4.4 まとめ
5 層状構造の柔軟化によるはく離とナノシートの合成
5.1 はじめに
5.2 層間相互作用の変換による柔軟な層状物質を利用した表面修飾ナノ
シートの合成
5.3 ハイスループット化とマテリアルズインフォマティクス(MI)による制御性
の向上
5.4 表面修飾ナノシートのコーティングと応用
5.5 おわりに
6 超膨潤ラメラ液晶相を鋳型とするナノシート合成法
6.1 はじめに
6.2 種々の鋳型の特徴
6.2.1 液液界面
6.2.2 気液界面合成
6.2.3 固気界面合成
6.2.4 固液界面合成
6.2.5 ハードテンプレート合成
6.3 ソフトテンプレートを用いたナノシート合成
6.3.1 液晶とは
6.3.2 液晶を用いたナノシート合成法の特徴と合成が可能な材料の範囲
6.3.3 TRAP法におけるナノシートサイズの制御
6.4 おわりに
7 固相界面活性剤を用いたナノシート合成の新展開
7.1 はじめに
7.2 固相界面活性剤結晶とこれまでの展開
7.3 固相界面活性剤結晶の形態を反映したナノシート合成
7.4 固相界面活性剤結晶の層間を反応場として活用したナノシート合成
7.5 固相界面活性剤結晶の層間を鋳型としたナノシート合成
7.6 おわりに
8 単分散ナノシートのボトムアップ合成
8.1 ボトムアップ合成とナノシートの形状制御
8.2 単分散チタン酸ナノシートの合成
8.3 単分散水酸化マグネシウムナノシートの合成
8.4 まとめ
9 多孔性配位高分子MOF ナノシートの液相界面合成と機能創出
9.1 はじめに
9.2 ポルフィリンを有するMOFナノシート
9.2.1 気水界面におけるMOFナノシートの形成とその場X 線回折測定
9.2.2 気水界面における錯形成反応制御によるMOFナノシートの
大面積化
9.2.3 分子種の変更によるMOFナノシートの構造制御
9.3 トリフェニレン誘導体を有する導電性MOFナノシート
9.3.1 気水界面におけるナノシート合成
9.3.2 フレームワーク構造の直接観察
9.3.3 高い電気伝導と光透過能
9.3.4 放射光を用いたナノシートの構造評価と高い電気伝導実現の理由
9.4 おわりに
10 超分子ナノシートの創製
10.1 はじめに
10.2 擬ポリロタキサンナノシートの創製
10.3 α‒CyDとPEOホモポリマーによる包接錯体の高次構造
10.4 PPRNSの溶解機構
10.5 PPRNSの耐水性向上と防汚コーティングへの応用
10.6 おわりに
第3章 ナノシートの集積と機能
1 ナノシートの高品位薄膜作製と電子デバイス応用
1.1 はじめに
1.2 ナノシートの液相集積技術
1.3 ナノシートの高速・大面積成膜
1.4 ナノシートの電子デバイス応用
1.5 おわりに
2 ナノシートのコロイド液晶と光学機能
2.1 はじめに~コロイドと液晶~
2.2 ナノシート液晶~ナノシートのコロイド液晶~
2.3 ナノシート液晶の構造
2.3.1 単成分系
2.3.2 多成分系
2.4 ナノシート液晶の光学的性質~ナノシート液晶による構造色
3 ナノシート集合構造の電場制御と機能
3.1 はじめに
3.2 無機ナノシートの配向制御
3.3 無機ナノシートの電場配向
3.4 電場による無機ナノシート液晶の集合構造制御
3.4.1 電場と重力の組み合わせによる階層構造
3.4.2 多成分系ナノシート液晶への適用
3.5 電場配向がもたらすナノシートの機能
3.5.1 エレクトロレオロジー
3.5.2 電場配向による光機能
3.5.3 配向の固定化
3.5.4 ディスプレイ
3.6 まとめ
4 ナノシート集合構造の磁場制御と機能
4.1 はじめに
4.2 磁場配向の基礎
4.3 ナノシートの磁場配向
4.4 ナノシートのフォトニック結晶の磁場配向と構造色制御
4.5 おわりに
5 ナノシートが積層したファイバー
5.1 はじめに
5.2 金板状粒子積層型ナノファイバー
5.3 板状粒子積層型ナノファイバーの発展
5.4 カドミウムセレナイドナノシートの積層型ナノファイバー
5.5 酸化チタン単分散ナノシートの積層型ナノファイバー
5.6 層状結晶の大膨潤によるファイバー形成
5.7 おわりに
6 ナノシートの光マニピュレーション
6.1 はじめに
6.2 光マニピュレーション
6.3 ナノシート1 枚の光マニピュレーション
6.4 ナノシートコロイドに生成するナノシートの巨大な配向秩序構造
6.5 おわりに
7 分子間力に基づく2Dナノシートの自発的切断メカニズム
7.1 はじめに
7.2 非平坦基板への吸着による酸化チタンナノシートの切断
7.3 酸化チタンナノシートの切断メカニズムの検証
7.4 おわりに
第4章 ナノシートを基盤とした機能材料とその応用
1 ケイ酸塩・チタン酸塩ナノシートの吸着・触媒応用
1.1 はじめに
1.2 層状ゼオライト前駆体とゼオライトナノシート
1.3 層状アルカリケイ酸塩ナノシート
1.4 層状チタン酸塩ナノシート
2 高速・高効率電極反応を実現するナノシートの垂直配向技術
2.1 はじめに
2.2 ナノシート電極の物質移動促進
2.3 電気泳動堆積法を用いたナノシートの垂直配向技術
2.4 垂直配向rGO電極の高速電荷蓄積挙動
2.5 垂直配向TiO2 (B)電極の高速Li+挿入/脱離
2.6 垂直配向MXene電極の電気化学キャパシタ応用
2.7 垂直配向MXene電極の電気化学バイオセンサ応用
2.8 まとめ
3 無機ナノシートをプロトン伝導体に用いた燃料電池
3.1 車載用燃料電池について
3.2 無機ナノシートイオン伝導体
3.3 ナノシート積層自立膜の作製と水素ガスバリア性
3.4 無機ナノシート自立膜をプロトン電解質に用いた燃料電池
3.4.1 酸化グラフェン燃料電池
3.4.2 シリケートナノシート燃料電池
3.5 まとめ
4 生体関連化合物の物性に及ぼすナノシートの効果
4.1 はじめに
4.2 タンパク質における粘土鉱物の効果
4.3 アルカロイド色素における粘土鉱物の効果
4.4 まとめ
5 色素・ナノシート複合体による環境センシング
5.1 緒言
5.2 会合解離現象を利用した分子検知
5.3 相互作用を利用した分子検知
5.4 配位結合を利用した分子検知
5.5 キレート色素を用いたイオン検知
5.6 さいごに
6 フォトクロミック色素・層状物質複合体の光機能
6.1 緒言
6.2 フォトクロミック色素・層状物質複合体の合成
6.2.1 溶液中での合成
6.2.2 有機溶媒中での合成
6.2.3 気相からの吸着
6.2.4 固相反応
6.3 フォトクロミック色素と層状物質ホスト-ゲスト相互作用によるフォト
クロミズムの制御
6.3.1 アゾベンゼン
6.3.2 ジアリールエテン
6.3.3 スピロピラン
6.4 フォトクロミック色素による層状物質の物性制御
6.4.1 光誘起吸脱着
6.4.2 その他の光応答性材料の開発
6.5 今後の展望
7 ナノシート液晶/高分子複合材料
7.1 はじめに
7.2 ナノシート液晶/高分子複合ヒドロゲルの合成
7.3 力学物性と刺激応答変形
7.4 異方的な物質輸送
7.5 メカノクロミック構造色ゲル
7.6 おわりに
8 耐候性・バリア性を持つ粘土ナノシート/有機高分子複合透明膜
8.1 はじめに
8.2 共有結合を介し粘土ナノシート/ポリエチレングリコールが複合された
熱遮蔽性透明膜
8.3 植物由来高分子リグニンをバインダーとし粘土ナノシートが積層された
ガスバリア性透明膜
8.4 おわりに
9 抗菌性無機ナノシート
9.1 はじめに
9.2 抗菌性アルキルアンモニウムイオンを結合した無機ナノシート
9.3 抗菌性無機ナノシートをコーティングした固体の表面抗菌性
9.4 無機ナノシートの抗菌性に及ぼす化学組成の影響
9.5 おわりに
10 ナノシートのドラッグデリバリー応用
10.1 はじめに
10.2 ナノメディシンについて
10.3 がん治療に用いられる二次元ナノ材料
10.3.1 グラフェン
10.3.2 MXene
10.3.3 層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)
10.3.4 黒リンナノシート(BPNS:Black Phosphorus Nanosheet)
10.3.5 金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)
10.3.6 遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD:Transition Metal
Dichalcogenide)
10.4 おわりに
11 走査透過型電子顕微鏡によるナノシート材料とその超分子複合体の
原子分解能観察
11.1 はじめに
11.2 粘土鉱物ナノシート
11.3 単層粘土鉱物ナノシートの原子分解能観察
11.4 単層Mt ナノシートの優れた電子線照射耐性
11.5 粘土鉱物ナノシート上の超分子複合体の原子分解能観察
11.6 STEM トモグラフィーを用いたナノ粒子集合系の三次元観察
11.7 まとめ
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