本書のテーマ・関連分野:
バルク金属ガラス開発の歴史と経緯/バルク金属ガラスの構造と基礎物性/バルク金属ガラスの作製とガラス形成能/バルク金属ガラスの機械的および機能特性/バルク金属ガラスの加工法/バルク金属ガラスの工学的応用
刊行にあたって
金属は我々の日常の社会生活基盤を支える最も基本的な材料であり,金属材料なくしては現在の高度な人類文明社会の維持・発展は不可能である。ところで,酸化物ガラスなどの他の基本材料には、結品質と非晶質構造が相補する形で実用材料の発展に貢献してきている。これに対して,有史以来非常に長い間使用されてきた金属材料では非常に偏った状況で発展してきた。すなわち,3次元形状が利用できる厚みが数ミリメートル以上のバルク形状の金属材料においては,実用材料は有史から産業革命を経て1990年頃までの極めて長い間結晶構造状態のみに限られていた。これは,金属結合物質では融点近傍の高温では構成原子は容易に動くことが出来る結果,融点以下に冷却された過冷却金属液体では瞬時に平衡状態相である結晶相に変態を起こしてしまうためであった。このような状況を反映して、社会基盤材料として最も重要な構造用材料として金属を取り扱った書籍のすべては結晶金属のみが取り扱われており,非結晶構造の金属を商用の構造用材料として紹介している書籍はほとんど見当たらない。唯一,バルク金属ガラス開発の初期のデータに基づいて書かれた英語の2冊の書籍「Bulk Amorphous Alloys -Preparation and Characterization-(A. Inoue, Trans Tech Publications, Zurich, 1998)」および「Bulk Amorphous Alloys-Characteristics and Applications-(A. Inoue, Trans Tech Publications, Zurich, 1999)」があるのみである。この本は1998年当時の最新成果に基づいて書かれ,この本に刺激を受けてバルク金属ガラス分野の研究に参入した研究者も多くいるようである。しかし,執筆後,10年近くが経ち,最新の成果を取り入れた書籍の出版が待ち望まれていた。
最近,バルク金属ガラスの生成を世界に先駆けて見出した筆者らの研究の進展に伴って,3次元形状材として利用できる新金属として,特殊なランダム構造を持ったバルク金属ガラスが特定の成分則を満たした多くの合金系で見出され,基礎学術研究用としてのみならず産業用素材として使用され始めている。長い歴史を持つ金属材料の分野において、社会基盤材料の革新をもたらしつつあるバルク金属ガラスの基礎と応用について大学生ならびに専門外の研究者や技術者に理解できるように,出来る限り平易に体系化して紹介した教科書,解説書の類の出版を数年前から数社の出版社から強く依頼されていた。
このたび,1997年から2002年の5年間,過冷却金属液体の極限を見極めるとともにその原因を究明するために行った科学技術振興事業団(現在,科学技術振興機構)の創造科学推進事業「井上過冷金属」プロジェクトのグループリーダーを勤めた西山信行博士(現在,東北大学金属材料研究所RIMCOF研究室,特別研究員),才田淳治博士(現在、東北大学学際科学国際高等研究センター,准教授)および今福宗行博士(現在,日鉄テクノリサーチ,解析センター,物性グループリーダー)の共同執筆者ならびにシーエムシー出版の江幡雅之氏の協力を得て,長年に渡って依頼されていた“バルク金属ガラスの材料科学と工学”と題する書籍をここに出版できるに至ったことは,本分野を世界に先駆けて開拓し、世界に広め,多くの研究者を引き込んだ研究者としての社会的責務の一端を果たすことに繋がるものと思っている。
本書は、金属材料開発とバルク金属ガラスの位置づけ,バルク金属ガラスに先立って開発されたアモルファス金属の特長と問題点,金属ガラスの開発の経緯,金属ガラスとアモルファス金属の特長の差異,金属ガラスの成分,組成,構造,形成能,作製プロセス,熱的安定性,物理的性質、機械的性質,変形・破壊挙動,化学的性質,粘性流動挙動,塑性加工プロセス,鋳造成形加工プロセス,微細転写加工プロセス,ポーラス化プロセス,結晶化挙動,ナノ結晶分散型ガラス合金の生成と性質,ナノ準結晶分散型ガラス合金の生成と性質,デンドライト結晶分散型ガラス合金の生成と性質,様々な応用例と機能特性などについて出来る限り最新の結果を取り入れて紹介している。
本書により,新金属“バルク金属ガラス”に興味を抱き、次世代を担う若手人材が輩出するとともに,本材料の非常に優れた諸特性とユニークな作製・加工エプロセスを利用した応用分野の開拓に興味を抱く技術者や研究者が生まれ出て,本新金属が結晶金属と合い並び立つ状況で社会基盤を支える材料として発展することを祈念致しております。
2008年3月 東北大学総長 井上明久
著者一覧
今福宗行 ㈱日鐵テクノリサーチ
才田淳治 東北大学
西山信行 ㈶次世代金属・複合材料研究開発協会(RIMCOF)
目次 - クリックで目次を閉じる
第1章 金属材料の歴史におけるバルク金属ガラスの位置づけ
第2章 バルク金属ガラスの対極としての結晶金属材料
第3章 アモルファス金属開発の黎明期
第4章 超急冷アモルファス合金
1 作製法・成分
1.1 気体状態からの凍結
1.2 液体状態からの凍結
1.3 固相状態からの凍結
1.4 成分系の特徴
2 構造
3 熱的性質
4 機械的性質
5 磁気的性質
6 耐食性
7 アモルファス合金の応用の限界と問題点
第5章 構造緩和研究とバルク金属ガラスの発見
1 はじめに
2 構造緩和研究とバルク金属ガラス
3 バルク金属ガラスの発見
4 バルク金属ガラス発見以降の構造緩和研究
5 おわりに
第6章 バルク金属ガラス合金系
1 はじめに
2 主構成元素からの分類
3 構成元素組み合わせからの分類
4 開発の経緯と指針,研究開発動向,研究勢力の分布
5 おわりに
第7章 過冷却液体の安定化機構
1 はじめに
2 アモルファス合金の局所原子配列
3 バルク金属ガラスの局所原子配列
4 おわりに
第II編 バルク金属ガラスの構造と基礎物性
第1章 3成分則
第2章 密度・構造
1 密度
2 構造
2.1 Zr-Al-Niガラス合金の結晶化にともなう局所構造変化
2.2 Zr-Al-Ni-Cu金属ガラスの相変態解析からの局所環境の考察
2.3 Fe-(Zr,Hf,Nb)-B金属ガラスの相変態と局所構造解析
2.4 その他の系の金属ガラスにおける局所構造
2.5 金属ガラスの局所構造に関する最近の成果
第3章 粘性
1 ガラス固体温度域における粘性率の温度依存性とその圧縮変形挙動への影響
2 過冷却液体温度域における粘性率の温度依存性とその圧縮変形挙動への影響
第4章 熱的性質
第5章 基礎物性
1 電気抵抗
2 比熱
3 拡散
第6章 電子状態
第7章 構造緩和とガラス遷移
1 構造緩和
2 ガラス遷移
第III編 バルク金属ガラスの作製とガラス形成能
第1章 バルク金属ガラスの作製プロセス
1 はじめに
2 従来のアモルファス合金の作製技術
3 バルク金属ガラスの作製技術
3.1 溶融合金焼入れ法
3.2 高周波溶解鋳造法
3.3 アーク溶解鋳造法
4 おわりに
第2章 ガラス形成能と臨界冷却速度
1 はじめに
2 従来の研究
3 ガラス化臨界冷却速度の実測
4 ガラス形成能を評価する熱力学的パラメータ
5 おわりに
第3章 フラックス処理と結晶核生成・成長
1 はじめに
2 従来の研究
3 ガラス相生成に関する従来の熱力学的アプローチ
4 Pd-Cu-Ni-P合金に対する熱力学的アプローチの適用
5 等温保持によるPd-Cu-Ni-P過冷却液体の核生成・成長
6 等温保持によるPd-Cu-Ni-P過冷却液体の結晶核成長挙動
7 Pd-Cu-Ni-P過冷却液体に対するB2O3フラックスの効果
8 おわりに
第4章 形成能・安定性の計算科学予測
1 熱力学的アプローチ
2 幾何学的アプローチ
3 計算科学的アプローチ
第5章 結晶化
1 結晶化相とその速度論
1.1 Zr系金属ガラス
1.2 Fe系金属ガラス
1.3 Pd系金属ガラス
1.4 その他の系の金属ガラス
2 結晶相の核生成・粒成長
2.1 Zr-Al-Ni-Cu金属ガラス
2.2 Pd-Cu-Ni-P金属ガラス
3 ナノ結晶・ナノ準結晶
3.1 ナノ結晶
3.2 ナノ準結晶
第6章 2相金属ガラス
第IV編 バルク金属ガラスの機械的および機能特性
第1章 機械的性質
1 はじめに
2 引張強さ,圧縮強さ,伸び
3 弾性変形挙動
4 曲げ強度,捩り強度,疲労強度
5 衝撃強さ,破壊靭性
6 耐摩耗性
7 組織制御による高延性・高靭性化
8 おわりに
第2章 耐食性
1 はじめに
2 金属ガラスの高耐食性の発現機構
3 Zr基金属ガラスの耐食性
4 Cu基金属ガラスの耐食性
5 特殊な環境での金属ガラスの耐食性
6 おわりに
第3章 磁気的性質
1 はじめに
2 軟磁性バルク金属ガラス
3 バルク金属ガラスの軟磁気特性の特異性
4 零磁わいバルク金属ガラスの開発
5 おわりに
第V編 バルク金属ガラスの加工法
第1章 冷間加工性
1 はじめに
2 金属ガラスに対する冷間加工
3 バルク金属ガラスに対する冷間加工
4 おわりに
第2章 切削加工性
1 はじめに
2 変形挙動と切削加工性
3 バルク金属ガラスの切削による変質
4 バルク金属ガラスの切削力
5 バルク金属ガラスの切削加工面
6 良好な切削加工性の発現理由
7 おわりに
第3章 粘性流動加工
1 はじめに
2 金属ガラスとガラス遷移
3 高温域での粘性流動
4 中温域での粘性流動挙動
5 金属ガラスの変形・破壊挙動の本質
6 粘性流動加工の加工条件設定
7 おわりに
第4章 ナノ集束イオンビーム加工
1 はじめに
2 金属ガラスに対するFIB加工
3 FIB加工を用いた金属ガラスのナノパターニング
4 おわりに
第5章 ナノインプリント加工
1 はじめに
2 インプリントによるナノパターンの転写および形状評価
3 FIB加工とインプリント加工
4 金属ガラスを用いたインプリント加工の応用開発例
5 おわりに
第6章 接合加工
1 はじめに
2 接合加工の分類
3 液相接合
4 過冷却液相接合
5 固相接合
6 おわりに
第7章 表面装飾加工
1 はじめに
2 素材
3 表面エンボス加工
4 転写レプリカ
5 その他表面仕上げ
6 おわりに
第8章 粉末作製と固化
1 はじめに
2 粉末作製および固化成形技術の開発経緯
3 金属ガラス粉末の作製
4 おわりに
第9章 線材作製
1 はじめに
2 従来の研究
3 融液抽出法による金属ガラス細線の作製
4 溝急冷法による金属ガラス線材の作製
5 おわりに
第10章 金型精密鋳造
1 はじめに
2 従来の研究
3 高寸法精度精密部材の作製
4 金属ガラスの型転写性
5 おわりに
第11章 金属ガラス薄膜
1 はじめに
2 スパッタ法による金属ガラス薄膜の作製と性質
3 金属ガラス薄膜の応用研究事例
4 おわりに
第12章 ポーラスバルク金属ガラス
1 はじめに
2 ポーラスバルク金属ガラス開発の経緯
3 ポーラスバルク金属ガラスの作製方法
4 ポーラスバルク金属ガラスの構造と組織
5 ポーラスバルク金属ガラスの機械的性質
6 ポーラスバルク金属ガラスの変形挙動
7 おわりに
第13章 表面被覆金属ガラス
1 はじめに
2 金属ガラスに適用可能な表面被覆法
3 最近の金属ガラス表面被覆
4 おわりに
第14章 異種金属分散バルク金属ガラス
1 異種金属分散
2 異種セラミックス分散
第15章 ナノ結晶分散バルク金属ガラス
1 ナノ結晶分散による機械的特性の改善
2 ナノ結晶分散による磁気的特性の改善
第16章 ナノ準結晶分散バルク金属ガラス
第17章 デンドライト結晶分散バルク金属ガラス
第18章 ナノクラスター分散バルク金属ガラス
第19章 3成分則の拡張による非平衡結晶合金
1 はじめに
2 非平衡結晶合金開発に至る経緯
3 開発された非平衡結晶合金
4 おわりに
第VI編 バルク金属ガラスの工学的応用
1 はじめに
2 スポーツ用具
3 携帯機器用ケーシング部材
4 光学機器用部材
5 記録媒体
6 圧力センサ
7 マイクロギヤードモータ
8 コリオリ流量計
9 リニアアクチュエータ
10 投射材
11 電磁気部材
12 機械構造部材およびロボット部材
13 高速輸送機器部材
14 装飾部材
15 水素透過膜
16 セパレータ
17 おわりに


