キーワード:
リジン/バリン/グルタミン酸/アルギニン/アラニン/メチオニン/スレオニン/イソロイシン/グリシン/アスパラギン酸/テアニン/タウリン/アミノレブリン酸/生体恒常性/うま味/味覚受容/粘膜防御/酵素/代謝/抗ストレス/脳機能/消化吸収
刊行にあたって
地球型生命体は古代の原始の暖かい海の中で生まれたと考えられている。生命活動を担ったのは自然発生的に生じたL‐型アミノ酸が結合した蛋白質であり、遺伝情報の担い手の核酸合成の基質となり、単細胞生物から我々高等哺乳類まで進化してきた。哺乳類の血中アミノ酸20種の各濃度はマウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、そしてヒトまでほぼ同じ濃度であり、一日中厳密に恒常性が維持される様、代謝調節している。体内で代謝による生合成が全く出来ないか、不十分なアミノ酸は食物中に含まれる蛋白質を消化吸収して獲得することにより、消費と摂取のバランスを保ち、それでも生じる不足はアミノ酸のプールである体蛋白質を分解することにより血中のアミノ酸の恒常性を維持している。 過剰になったアミノ酸は分解(異化)してエネルギー源として利用する。この各アミノ酸の恒常性はいつでも生理的欲求にもとづいて必要な生理機能を持った蛋白質を生合成して活動性と健康とを守る上での前提である。従って我々の脳は常に20種のアミノ酸の恒常性に注目して生理学的に許容される濃度範囲におさまる様、食事を量的質的に調節している。食事性蛋白質の長期にわたる欠乏状態は低アルブミン血症にともなう浮腫や体液の循環障害などの全身性疾患に至る。加えて体内で生合成出来ない特定の必須アミノ酸の欠乏ではより重篤な疾患、例えばトリプトファン欠乏に伴うナイアシン欠乏によるペラグラ症の発症などにつながる。小児および高齢者ではアミノ酸の代謝調節がエネルギー代謝とも深くかかわり、摂取エネルギー不足は糖原性アミノ酸が糖新生に利用され、結果的にアミノ酸恒常性の失調を生じ、成長や生活の質を低下させる。アミノ酸代謝の変化とメタボリック症候群との関係も重要性が増していることから、厳密な恒常性のわずかな失調を知ることにより、特定疾患の早期診断のバイオマーカーとしての役割も期待される様になった。
人々は豊かな食生活を求め、経済の発展により嗜好性の高い動物性蛋白質への欲求が大きな市場を形成しているが、一方で畜産に伴う副生成物である排泄物が環境への負荷を高めている。畜産物の代替として期待される動物性蛋白質である海洋での魚介類も当然限界がある。地球環境をより良く守り、かつ我々の求める動物性食品も確実に手に入れるにはアミノ酸の有効な利用が欠かせない。穀物や豆類などの食糧資源の拡大も限界に近づくにつれて、これらの植物性蛋白質をおいしく食べ栄養学的にも充分な質と量とを確保することが重要であり、呈味や食感を含めた食品科学におけるアミノ酸の高度な利用も2050年ごろの90億の人口を支える上で今後の大きな課題となる。
食糧問題は気候変動、人口増加、災害や流通の乱れで生じ、我々が得られる食糧の確保や備蓄も短期的には重要であるが、含まれる蛋白質の有効な利用を支えるアミノ酸科学の広がりが欠かせないと考える。
本総説はアミノ酸科学の第一線研究者に執筆を依頼し、最先端の情報や臨床的知見を正しく理解できる様心がけ、全体をまとめてみた。 私としては自信をもってアミノ酸科学に興味を持つ人々に薦めたい本に仕上がったと考えている。(「巻頭言」より)
〈普及版の刊行にあたって〉
本書は2014年に『アミノ酸科学の最前線-基礎研究を活かした応用戦略-』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
2020年12月 シーエムシー出版 編集部
著者一覧
鳥居邦夫 ㈱鳥居食情報調節研究所 門脇基二 新潟大学 宮野博 味の素㈱ 河合美佐子 味の素㈱ 坂井良成 味の素㈱ 吉田竜介 九州大学 二ノ宮裕三 九州大学 新島 旭 新潟大学名誉教授 北村明彦 味の素㈱ 畝山寿之 味の素㈱ 加治いずみ Department of Medicine;北海道大学 秋葉保忠 Department of Medicine 永森收志 大阪大学 金井好克 大阪大学 西条寿夫 富山大学 上野照子 富山大学 小野武年 富山大学 加藤久典 東京大学 吉澤史昭 宇都宮大学 木戸康博 京都府立大学 木村英一郎 味の素㈱ 伊藤久生 味の素㈱ | 古瀬充宏 九州大学 勝俣昌也 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 藤村忍 新潟大学 小林久峰 味の素㈱ 下村吉治 名古屋大学 山本 茂 アジアの栄養・食文化研究所(十文字学園女子大学) 今泉 明 味の素㈱ 吉田寛郎 味の素㈱ 遠藤文夫 熊本大学 香川靖雄 女子栄養大学 島田久基 社会福祉法人 新潟市社会事業協会 五味郁子 神奈川県立保健福祉大学 中村丁次 神奈川県立保健福祉大学 薩 秀夫 前橋工科大学 森田匡彦 協和発酵バイオ㈱ 桜田真己 所沢ハートセンター 山田貴史 中部大学 横越英彦 中部大学 柴田克己 滋賀県立大学 田中 徹 SBIファーマ㈱ 高橋 究 SBIファーマ㈱ 安部史紀 SBIファーマ㈱ |
執筆者の所属表記は、2014年当時のものを使用しております。
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1 アミノ酸の発見と分析
1.1 アミノ酸発見の歴史
1.2 アミノ酸分析
1.2.1 アミノ酸分析の歴史
1.2.2 現在のアミノ酸分析法
1.2.3 アミノ酸分析のための試料調製法
2 アミノ酸の呈味
2.1 はじめに
2.2 アミノ酸の代表的な味―基本味「うま味」の特性
2.2.1 うま味の独立性
2.2.2 うま味の相乗効果
2.2.3 うま味の嗜好性
2.3 種々のアミノ酸の味
2.3.1 個々のアミノ酸の味の特徴
2.3.2 食品中でのアミノ酸の呈味
2.4 おわりに
3 アミノ酸の生体恒常性
3.1 生体恒常性とは何か
3.2 蛋白質摂取の認知と血中アミノ酸の恒常性
3.3 必須アミノ酸欠乏の認知と適応
3.4 リジン欠乏に関わる脳の機能
3.5 おわりに
4 アミノ酸の安全性
4.1 アミノ酸大量摂取の影響
4.2 栄養素の一日許容摂取量を求める上での課題
4.3 栄養素の安全性評価において考慮すべき二つのリスク
4.4 様々なタンパク質摂取条件に対する生体の適応能力
4.5 タンパク質・アミノ酸の上限量を求める手法開発
4.6 栄養素間の相互影響
4.7 おわりに
第2章 アミノ酸の栄養生理学
1 味覚
1.1 はじめに
1.2 味覚受容器
1.3 味覚受容機構
1.3.1 Gタンパク質共役型受容体による味覚受容
1.3.2 チャネル型受容体による味覚受容
1.3.3 うま味受容研究の最前線
2 消化管でのアミノ酸による迷走神経応答とその反射
2.1 はじめに
2.2 内臓感覚
2.2.1 腹部内臓の求心性神経支配
2.2.2 腹部内臓に存在するアミノ酸センサーの働き
2.3 まとめ
3 アミノ酸と消化管粘膜応答
3.1 はじめに
3.2 粘膜防御機構とin vivo実験法
3.3 胃酸分泌制御とアミノ酸
3.4 十二指腸におけるL-グルタミン酸受容体を介した粘膜防御機構
3.5 アミノ酸による粘膜保護作用を補佐する機構
3.6 粘膜傷害モデルにおけるアミノ酸の効果
3.7 管腔内アミノ酸による栄養素吸収への影響
3.8 おわりに
4 アミノ酸の吸収の仕組み
4.1 アミノ酸トランスポーターの輸送メカニズム
4.2 吸収上皮細胞に存在するトランスポーター
4.3 アミノ酸トランスポーターと補助因子
4.4 おわりに
5 うま味の味覚識別ならびに嗜好性の神経機構
5.1 はじめに
5.2 味覚識別機構と食物摂取
5.3 橋結合腕傍核における味覚情報処理
5.3.1 味覚識別機構
5.3.2 摂取調節機構
5.4 扁桃体における味覚情報処理
5.4.1 味覚の情動的価値評価
5.4.2 連合学習における扁桃体の役割
5.5 眼窩皮質におけるうま味の認知機構
5.5.1 ラット眼窩皮質
5.5.2 ヒト眼窩皮質
5.6 自閉症スペクトラム障害における味覚障害
5.7 おわりに
6 アミノ酸摂取と遺伝子発現
6.1 アミノ酸による遺伝子発現調節の分子機構
6.2 mTOR経路
6.3 GCN経路とATF4の制御
6.4 アミノ酸摂取とmRNAレベル
7 アミノ酸とタンパク質合成調節
7.1 分岐鎖アミノ酸によるタンパク質合成促進
7.2 ロイシンのタンパク質合成促進作用
7.3 ロイシンセンサーとロイシンのタンパク質合成促進シグナルの伝達機構
7.4 おわりに
8 アミノ酸とタンパク質分解調節
8.1 はじめに
8.2 アミノ酸によるオートファジー調節
8.2.1 アミノ酸のセンシング
8.2.2 アミノ酸のシグナリング
8.2.3 最近のmTOR仮説の進展
8.3 調節経路の多様性
8.4 おわりに
9 アミノ酸の必要量
9.1 アミノ酸必要量の定義
9.2 アミノ酸必要量を決定する方法
9.3 乳児期(0~6ヶ月齢)のアミノ酸必要量
9.4 成長期(6ヶ月齢~17歳)のアミノ酸必要量
9.5 成人期(18歳以上)のアミノ酸必要量
第3章 アミノ酸と食糧生産
1 アミノ酸の製造方法
1.1 はじめに
1.2 アミノ酸の製造方法
1.2.1 抽出法
1.2.2 化学合成法
1.2.3 発酵法
1.2.4 酵素法
1.3 グルタミン酸発酵の最新の知見
1.3.1 グルタミン酸生産菌の発見
1.4 アミノ酸生産の最先端技術
1.4.1 アミノ酸発酵菌への合成生物学の適用
1.4.2 アミノ酸発酵プロセスと単離精製プロセスを統合した効率化の試み
1.4.3 含硫アミノ酸の発酵生産
2 ニワトリにおけるアミノ酸代謝の特異性およびアミノ酸研究への展開
2.1 はじめに
2.2 アミノ酸要求量
2.3 ニワトリにおけるアミノ酸代謝の特徴
2.4 ニワトリを用いたアミノ酸の脳機能研究ならびにヒト研究への展開
3 アミノ酸制御による養豚の新技術
3.1 アミノ酸を添加した低タンパク質飼料の給与によるブタからの窒素排泄量低減
3.2 アミノ酸を添加した低タンパク質飼料の給与によるブタ糞尿からの温室効果ガス(GHG)排出低減
3.3 アミノ酸を添加した低タンパク質飼料の給与技術のライフサイクルアセスメント(LCA)による評価
4 食肉の呈味とアミノ酸
4.1 食肉の機能
4.2 食肉のおいしさの要因
4.3 食味における呈味成分の役割
4.4 食肉の熟成とアミノ酸
4.5 呈味以外へのアミノ酸の寄与
4.6 脂肪交雑とアミノ酸
4.7 飼料アミノ酸による食肉の呈味向上
4.8 まとめ
5 アミノ酸と環境保護
5.1 はじめに
5.2 蛋白質要求量と成長との関係
5.3 正常な成長に必要な蛋白質要求量
5.4 必須アミノ酸要求量と体蛋白質との関係
5.5 おわりに
第4章 ライフスタイルとアミノ酸
1 運動(リハビリテーション)を支えるアミノ酸
1.1 はじめに
1.2 筋のアミノ酸代謝
1.3 筋タンパク質合成・分解とアミノ酸
1.4 運動による筋損傷とアミノ酸
1.5 高齢者の筋タンパク質代謝とアミノ酸
1.6 アミノ酸による高齢者の筋機能改善
1.7 おわりに
2 高齢者のQOLとアミノ酸
2.1 はじめに
2.2 MSGによる食欲亢進作用
2.3 MSGによる口腔機能の改善
2.4 胃腸機能への影響
2.5 入院高齢者の食事へのMSG添加効果
2.6 最後に
3 アミノ酸の恒常性に基づく疾患の早期発見の試み―アミノインデックス技術―
3.1 はじめに
3.2 アミノインデックス技術の概要
3.2.1 血漿サンプル収集とアミノ酸濃度測定
3.2.2 病態評価のための統計的手法
3.3 検討例1 がん患者におけるpFAAプロファイル解析と判別可能性の検討
3.4 検討例2 内臓脂肪蓄積の評価におけるpFAAプロファイル解析の応用
3.5 おわりに
第5章 病態とアミノ酸
1 先天性アミノ酸代謝異常とその治療
1.1 はじめに
1.2 先天性アミノ酸代謝異常症の病態
1.3 先天性アミノ酸代謝異常症の治療
1.3.1 フェニルケトン尿症
1.3.2 尿素サイクル異常症
1.4 まとめ
2 術後のアミノ酸栄養
2.1 はじめに
2.2 プロテオミックス
2.3 周術期のアミノ酸供給
2.4 適正な長期間のアミノ酸確保
2.5 アミノ酸の時間栄養学
3 腎透析とアミノ酸栄養
3.1 はじめに
3.2 腎不全におけるアミノ酸代謝障害
3.2.1 正常腎のアミノ酸代謝への関与
3.2.2 腎不全病態下でのアミノ酸代謝異常
3.2.3 腎不全と低たんぱく食がアミノ酸代謝に影響する
3.3 透析とは
3.4 透析のアミノ酸代謝への影響
3.5 腎不全用アミノ酸輸液製剤
4 高齢者の低アルブミン血症とその対策
4.1 血清アルブミン
4.2 低栄養障害と血清アルブミン
4.3 高齢者における低アルブミン血症
4.4 高齢者における低栄養障害の影響
4.5 栄養ケアによる栄養改善
4.6 おわりに
5 発展途上国の蛋白質栄養改善
5.1 栄養状態の判定法
5.2 蛋白質・エネルギー欠乏症(PEM)の定義
5.3 PEMの原因となる食生活
5.4 PEM予防のための脂質栄養の重要性
5.5 PEMを予防するための食事
5.6 食品蛋白質のアミノ酸スコア
5.7 リジンの添加効果
5.8 PEMと感染症・下痢症
5.9 最後に
第6章 注目のアミノ酸とその応用
1 タウリン
1.1 はじめに
1.2 タウリンの生体内への供給
1.3 組織によるタウリン濃度の差異
1.4 タウリンの機能:浸透圧調節作用
1.5 タウリンの機能:抗酸化作用と抗炎症作用
1.6 タウリンの機能:胆汁酸塩の生成
1.7 タウリンの機能:肝機能に対する作用
1.8 タウリンの機能:脳・神経系の調節作用
1.9 タウリンの機能:心臓機能の調節作用
1.10 タウリンの機能:ヒトミトコンドリア病との関連
1.11 おわりに
2 グルタミン酸の生理作用
2.1 はじめに
2.2 味覚(うま味)と内臓感覚
2.3 たんぱく質の消化吸収とグルタミン酸との関わり(古典的研究から)
2.4 グルタミン酸摂取と消化における胃腸相との関係(攻撃因子と防御因子について)
2.4.1 攻撃因子に対するグルタミン酸摂取の効果(胃酸とペプシン分泌)
2.4.2 防御因子に対するグルタミン酸の効果(粘液と重炭酸分泌から)
2.4.3 グルタミン酸摂取による消化管粘膜保護(消化管粘膜障害モデル実験を用いた検証から)
2.5 グルタミン酸の生理作用の臨床応用
2.5.1 口腔機能向上への活用
2.5.2 高齢者の栄養管理への活用
2.6 グルタミン酸の新たな価値を求めて
3 L-シトルリンの代謝と生理作用
3.1 L-シトルリンの代謝
3.2 血管内皮機能におけるL-シトルリンの役割
3.3 L-シトルリンと脳機能
3.4 L-シトルリンとタンパク質代謝
3.5 おわりに
4 リジンの抗ストレス作用
4.1 はじめに
4.2 リジン欠乏に伴うストレスおよび不安耐性の低下
4.3 リジンの抗ストレス抗不安作用の仕組み
4.4 リジン欠乏地帯におけるリジン強化介入試験
4.5 おわりに
5 テアニン
6 トリプトファン
6.1 トリプトファンの役割
6.2 トリプトファン代謝異常
6.3 トリプトファン摂取量とナイアシン摂取量
6.4 NAD生合成経路と異化代謝経路
6.5 トリプトファン-ニコチンアミド代謝
6.6 脳のトリプトファン代謝
6.7 免疫とトリプトファン代謝
6.8 トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ欠損マウスのトリプトファン代謝
6.9 キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損マウスのトリプトファン代謝
6.10 脳内キヌレン酸の前駆体としてのD-トリプトファン
7 5-アミノレブリン酸
7.1 はじめに
7.2 ALAの物性
7.3 ALAの生合成と代謝,体内移行
7.4 健康分野でのALAの応用研究
7.5 医療分野でのALAの応用研究
7.6 その他分野でのALAの応用研究
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