キーワード:
樹脂/反応/重合/硬化/疲労特性/耐熱性/物性改善/高強度化/バイオベース化/ハイブリッド化/複合材料/CFRP/成形/プリプレグ/軽量化/リサイクル/電子部品/実装/絶縁材料/ソルダーレジスト/封止材/接着/接合/界面/接合強度/構造評価/動的共有結合/分光法/土木/建設/補修/補強
刊行にあたって
エポキシ樹脂は、様々な分野に適用されている樹脂のひとつであるが、エポキシ基を持った主剤とこれと反応する硬化剤の組み合わせで機能するため、その種類はとても多くなる。なかでも、この硬化剤の選択によって硬化した樹脂の性質、性能は大きく変わるので、目的に適した硬化剤の選択が重要である。したがって、要求性能を満足する物性を示す硬化物を得るためには、エポキシ樹脂と各硬化剤との反応メカニズムを把握することが要求される。
エポキシ樹脂のモノマーは、安定に保存できる一方で、硬化剤との付加反応も自己重合(触媒硬化)反応も容易に起こり、硬化物を形成できる高い反応性を有している。すなわち、相反する便利な性質を持っている。エポキシの反応は開環反応ゆえ揮発成分(縮合水)を伴わず、かつ硬化収縮が抑えられる。硬化後は安定した架橋構造となるため、強度、耐薬品性、電気特性あるいは密着性などに優れており、総合的に高い物性が得られる。このような特徴は、樹脂および硬化剤の化学構造の見地から検討することができる点で、要求性能を満たすものを戦略的に選定することができる樹脂といえる。
このように有用に使うことのできるエポキシ樹脂であるが、要求される性能・物性は益々高くなってきており、近年特にDXあるいはGXやSXに関連する要求が増してきている。AIやIoTを駆使した新たなスマート社会を目指す中で、電子機器類に応用される高性能な絶縁材料としてエポキシ樹脂に対する期待は大きい。また、サステナブルな資源循環やエネルギー利用についても大きな課題となっており、エポキシ樹脂も熱硬化性樹脂にもかかわらず、植物由来の樹脂やリサイクル技術について検討が進められている。
本書では、エポキシ樹脂の分野で活躍されておられる方々にお願いして、基本的な概論、あるいは樹脂の合成と物性、そして複合材料に関する記事を掲載させていただいた。これに加えて、各産業分野でエポキシ樹脂が活用されている事例や状況について、上述のDXやGXといったアプローチを含めて取りあげて、新しいエポキシ樹脂の取り組みをまとめることを狙いとした。各記事は著者のお立場によって適用分野が限定されている部分もあるが、総じて基礎的かつ一般的な内容として、エポキシ樹脂の化学構造や硬化反応を理解することで、DXやGXといった最近の要求性能を満たす活用事例につながっているかを取りまとめさせていただいた。本書を利用いただくいろいろな分野の方々のお役に立てるものにしたいと願っている。
最後に、執筆をお願いした各分野において第一人者としてご活躍されている著者の皆様には、本当にご多忙の中にもかかわらず本書の執筆を快諾いただき、刊行に至ることができましたことに監修者として感謝申しあげる。
本書「巻頭言」より
著者一覧
有光晃二 東京理科大学
伊藤由快 東京理科大学
青木大亮 東京理科大学
原田美由紀 関西大学
松田聡 兵庫県立大学
岸肇 兵庫県立大学
木村肇 大阪産業技術研究所
松本幸三 近畿大学
大山俊幸 横浜国立大学
漆﨑美智遠 福井大学
橋本保 福井大学
岡田哲周 大阪産業技術研究所
門多丈治 大阪産業技術研究所
平野寛 大阪産業技術研究所
上利泰幸 大阪工研協会
奥村航 石川県工業試験場
真田和昭 富山県立大学
納所泰華 富山県立大学
榎本航之 理化学研究所
菊地守也 山形大学
川口正剛 山形大学
冨永雄一 産業技術総合研究所
佐藤公泰 産業技術総合研究所
今井祐介 産業技術総合研究所
波多野諒 名古屋市工業研究所
高橋昭雄 横浜国立大学/岩手大学
木田紀行 三菱ケミカル㈱
小迫雅裕 九州工業大学
稲垣昇司 太陽ホールディングス㈱
伊藤友裕 横浜ゴム㈱
市川大稀 スーパーレジン工業㈱
庄司卓央 スーパーレジン工業㈱
田山紘介 スーパーレジン工業㈱
森直樹 東京科学大学
松本章一 大阪公立大学
内藤昌信 物質・材料研究機構
青木裕之 日本原子力研究開発機構;高エネルギー加速器研究機構
宮前孝行 千葉大学
山添寛知 コニシ㈱
進藤卓也 大阪ガスネットワーク㈱
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1 エポキシ樹脂の硬化反応と光・熱潜在性硬化剤
1.1 はじめに
1.2 硬化剤の分類
1.3 エポキシ樹脂と硬化剤の反応様式
1.3.1 付加反応型
1.3.2 重合反応型
1.4 熱潜在性硬化剤
1.4.1 物理的な潜在化
1.4.2 化学的な潜在化
1.5 光潜在性硬化剤
1.5.1 光カチオン硬化の機構
1.5.2 新規光塩基発生剤の開発と光アニオン硬化への応用
1.6 影部の光硬化~光反応の増幅~
1.6.1 酸・塩基増殖反応
1.6.2 光誘起フロンタル重合を利用した影部の光カチオン硬化
1.6.3 連鎖硬化剤の利用
1.7 おわりに
2 メソゲン構造によるエポキシ樹脂の放熱性・耐熱性向上
2.1 はじめに
2.2 剛直メソゲン構造の特徴と硬化組成の影響
2.3 無機フィラーとの複合化効果
2.4 多官能型メソゲン骨格エポキシ樹脂
2.5 エポキシ変性による高耐熱・高熱伝導化
2.6 おわりに
3 エポキシ樹脂の疲労特性
3.1 はじめに
3.2 エポキシ樹脂の疲労き裂伝ぱ特性の評価方法
3.3 フィラーを添加したエポキシ樹脂の疲労き裂伝ぱ特性
3.4 おわりに
第2章 エポキシ樹脂の合成と物性
1 新しいプロセスによる高耐熱性エポキシ樹脂の開発
1.1 はじめに
1.2 フェニルエチニルカルボニル基の重合
1.3 フェニルエチニルカルボニル基を有する酸無水物を硬化剤に用いたエポキシ樹脂の硬化反応
1.4 フェニルエチニルカルボニル基を有する酸無水物を硬化剤に用いたエポキシ樹脂のDSC挙動
1.5 フェニルエチニルカルボニル基を有する酸無水物を硬化剤として用いたエポキシ樹脂の硬化反応
1.6 フェニルエチニルカルボニル基を有する酸無水物を硬化剤として用いたエポキシ樹脂硬化物の特性評価
1.6.1 熱重量分析(TGA)
1.6.2 動的粘弾性試験(DMA)
1.6.3 電気抵抗率測定
1.6.4 吸水率測定
1.7 おわりに
2 バイオベースエポキシ樹脂
2.1 はじめに
2.2 様々なバイオベースエポキシ樹脂
2.2.1 植物油由来エポキシ樹脂
2.2.2 リグニン由来エポキシ樹脂
2.2.3 カルダノール由来エポキシ樹脂
2.2.4 バニリン由来エポキシ樹脂
2.2.5 イソソルバイド由来エポキシ樹脂
2.2.6 新しいバイオベースエポキシ樹脂開発の取り組み
2.3 おわりに
3 In situ生成改質剤ポリマーによるエポキシ樹脂の強靭化
3.1 はじめに
3.2 酸無水物硬化エポキシ樹脂の強靭化
3.3 アミン硬化エポキシ樹脂の強靭化
3.4 脂環式エポキシ樹脂の強靭化
3.5 おわりに
4 エポキシ基を有する種々のビニルエーテルとN-フェニルマレイミドのラジカル共重合による新規エポキシ樹脂の合成とその硬化物の物性
4.1 はじめに
4.2 VE(VEGEまたはVBGEまたはVEEGE)とNPMIのラジカル共重合および生成ポリマーの共重合体組成
4.3 Poly(VEGE-co-NPMI),Poly(VBGE-co-NPMI)およびPoly(VEEGE-co-NPMI)の熱的性質
4.4 Poly(VEGE-co-NPMI),Poly(VBGE-co-NPMI)およびPoly(VEEGE-co-NPMI)の硬化物の物性
4.5 まとめ
第3章 エポキシ樹脂複合材料
1 シランカップリング剤で修飾した窒化ホウ素粒子複合エポキシ樹脂の複合構造の変化と熱伝導率への影響
1.1 はじめに
1.2 シランカップリング剤によるh-BN粒子表面の修飾
1.2.1 走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察
1.2.2 浸透速度法によるぬれ性評価
1.2.3 カップリング剤被覆量と被覆形式の評価
1.3 h-BN粒子複合エポキシ樹脂の複合構造および熱伝導率の評価
1.3.1 複合エポキシ樹脂中のh-BN粒子の配向度
1.3.2 複合エポキシ樹脂の空隙率
1.3.3 複合エポキシ樹脂の熱伝導率
1.4 おわりに
2 現場重合型熱可塑エポキシ樹脂を用いた熱可塑性CFRP中間基材の開発
2.1 はじめに
2.2 現場重合型熱可塑エポキシ樹脂
2.3 モノマーの炭素繊維織物への含浸時間
2.4 成形時間と分子量の関係
2.5 熱可塑性CFRPの力学的性質
2.6 まとめ
3 炭素繊維/エポキシ樹脂積層材料への自己修復性付与
3.1 はじめに
3.2 国内外の自己修復FRPの研究開発事例
3.2.1 中空繊維に液体の修復剤を閉じ込める方法
3.2.2 マイクロカプセルに液体の修復剤を閉じ込める方法
3.2.3 細管ネットワークに液体の修復剤を閉じ込める方法
3.2.4 固体の修復剤を用いる方法
3.2.5 形状記憶合金を用いる方法
3.3 マイクロカプセルによる炭素繊維/エポキシ樹脂積層材料への自己修復性付与
3.4 おわりに
4 “表面処理剤フリー”エポキシ樹脂/ZrO2ナノ粒子ハイブリッドの光学特性
4.1 はじめに
4.2 実験
4.2.1 試薬
4.2.2 ZrO2 NPs水分散液からエポキシモノマーへのワンポット疎水化・相移動
4.2.3 エポキシ樹脂とZrO2 NPsとのハイブリッド化
4.2.4 測定
4.3 結果と考察
4.3.1 ZrO2 NPsの水からエポキシモノマーへの相移動
4.3.2 水からエポキシモノマーへの相移動のメカニズム
4.3.3 エポキシモノマーとZrO2 NPsの表面処理剤フリーハイブリッド化
4.3.4 ハイブリッド材料のナノ構造評価
4.3.5 ハイブリッド材料の光学特性
4.3.6 ハイブリッド材料の屈折率の温度依存性
4.3.7 ハイブリッド材料の透明性
4.4 結論
5 エポキシ樹脂複合材料の高強度化のための湿式せん断プロセス
5.1 はじめに
5.2 セラミックスナノ粒子の解砕とエポキシ樹脂との界面密着性向上を同時に実現する湿式ジェットミルプロセスの開発
5.3 バイオマスナノファイバーの解繊とマトリックス中での分散を同時に実現する回転ディスクミルプロセスの開発
5.4 おわりに
第4章 エポキシ樹脂の活用
1 電気電子分野
1.1 電子部品としてのエポキシ樹脂
1.1.1 エレクトロニクス実装
1.1.2 封止材料
1.1.3 積層材料
1.1.4 低誘電損失化
1.1.5 耐熱化,高熱伝導化
1.1.6 まとめ
1.2 高周波対応に向けたエポキシ樹脂の低誘電化技術
1.2.1 はじめに
1.2.2 低誘電エポキシ樹脂とその硬化物の設計
1.2.3 低誘電エポキシ樹脂の実際の開発事例
1.2.4 おわりに
1.3 ナノコンポジット絶縁材料の高機能化
1.3.1 はじめに
1.3.2 ナノ・マイクロコンポジットの作製方法
1.3.3 ナノ・マイクロコンポジットの熱伝導率
1.3.4 ナノ・マイクロコンポジットの電気絶縁性
1.3.5 フィラー配向とナノコンポジットのハイブリッド
1.3.6 複合材料バリスタの開発
1.3.7 ナノアルミナコーティングによる機能性絶縁材料の開発
1.3.8 フラーレン添加による機能性絶縁材料の開発
1.3.9 おわりに
1.4 プリント配線板用ソルダーレジスト
1.4.1 はじめに
1.4.2 ソルダーレジストの分類
1.4.3 熱硬化型ソルダーレジスト
1.4.4 紫外線硬化型ソルダーレジスト
1.4.5 現像型ソルダーレジスト
1.4.6 多様化するソルダーレジスト
1.4.7 今後の展望
2 CFRP(複合材料)分野
2.1 航空機における複合材利用とエポキシプリプレグの特徴
2.1.1 緒言
2.1.2 複合材料の製造方法とプリプレグ
2.1.3 航空機におけるプリプレグの適用分類
2.1.4 プリプレグ用エポキシ樹脂配合物の改質
2.1.5 エポキシ樹脂複合材料の今後
2.2 エポキシフォームの特徴とCFRP複合化技術
2.2.1 はじめに
2.2.2 エポキシフォームの特徴
2.2.3 エポキシフォームの基礎物性
2.2.4 エポキシフォームとCFRPのサンドイッチ構造体
2.2.5 エポキシフォームの適用事例
2.2.6 まとめ
2.3 CFRPのリサイクル
2.3.1 はじめに
2.3.2 CFRPのリサイクル技術
2.3.3 硝酸を用いたエポキシ樹脂のケミカルリサイクル
2.3.4 硝酸分解リサイクルのCFRPへの応用
2.3.5 おわりに
3 接着・接合分野
3.1 エポキシモノリスを用いる異種材接合
3.1.1 はじめに
3.1.2 異種材接合技術の開発
3.1.3 エポキシモノリスの特徴
3.1.4 モノリス表面処理を利用した異種材接合
3.1.5 モノリスシートを利用した異種材接合
3.1.6 おわりに
3.2 SDGs 時代のエポキシ接着剤
3.2.1 はじめに
3.2.2 動的共有結合と可逆接着剤
3.2.3 生物の代謝機構を模倣したエポキシ樹脂のリサイクル
3.2.4 おわりに
3.3 中性子反射率の原理と接着界面の構造解析への応用
3.3.1 はじめに
3.3.2 中性子反射率法の原理と特徴
3.3.3 エポキシ樹脂界面の構造解析
3.3.4 中性子反射率の新しい展開
3.3.5 まとめ
3.4 エポキシ高分子とイソシアネートプライマーとの界面反応
3.4.1 はじめに
3.4.2 SFG分光の原理と装置構成
3.4.3 SFG分光によるエポキシ高分子とプライマー界面の解析
3.4.4 おわりに
4 土木・建設分野
4.1 土木・建設用途へのエポキシ樹脂の適用
4.1.1 はじめに
4.1.2 建築構造物の改修工事に使用されるエポキシ樹脂系接着剤
4.1.3 まとめ
4.2 シャトルライニングⓇ工法
4.2.1 はじめに
4.2.2 工法の概要
4.2.3 ライニング剤
4.2.4 おわりに
エポキシ樹脂の高機能化と市場
価格(税込): 99,000 円
エポキシ樹脂の硬化メカニズム解析と機能設計
価格(税込): 83,600 円
エポキシ樹脂の設計技術と市場2022
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