キーワード:
ミリ波透過材/電波吸収体/電磁遮蔽材/設計基礎/電波伝搬/層構造/人工誘電体/全透過構造/車載ミリ波レーダー/めっき/エンブレム/金属調光沢/フィルム・コーティング/表面処理/加飾技術/先進運転支援システム/ピラミダル吸収体/シート/塗料/導電繊維/セラミックス/メタマテリアル/無線利用機器/評価法
刊行にあたって
電波吸収体,電磁遮蔽材は不要電磁波対策材料としてよく知られている。本書ではこれらに透過材を加え,ミリ波帯の最新技術としてまとめて出版することにした。新世代の通信システム(5G)が始まり,自動運転の実用化が目前に控えている現在,車載ミリ波レーダに関連する吸収材,遮蔽材,透過材の研究開発・実用化動向をまとめ,最新技術を整理しておくことは非常に重要であると考えている。
電波吸収体や電磁遮蔽材は,不要な電磁波を吸収/遮蔽することにより電磁環境を整備することを目的とする。透過材は,本書にて詳しく述べるとおり,反射を発生させず,材料内損失がない材料を用いて全入射波を透過する材料である。透過材は,レーダなどの機能向上だけでなく,不要成分である反射波を発生しないと言う点で,電磁環境整備の観点からも必須の材料である。
電波吸収体,電磁遮蔽材,透過材はそれぞれ機能が異なるけれども,電磁波が層構造へ入射するときの反射,透過という点に注目すると,これらは共通して取り扱える。層構造を2 端子網電気回路で考えた等価回路は吸収体,遮蔽材,透過材のいずれにも適用できるし,計算手法は殆ど共通である。吸収体,遮蔽材,透過材には設計上の共通点もある。整合の概念は吸収体だけでなく透過材にも必要であり,例えば1/4 波長厚み誘電体を用いる整合手法などは吸収体と透過材の両方に適用できる。さらに,金属格子や周期穴金属板についてはその等価回路を見れば,これらが透過材の構成要素であると同時に,低周波用の遮蔽材にもなることが直感的に理解できる。
このようなことを考慮すると,電波吸収体,電磁遮蔽材,透過材は個別に分けて考えるのではなく,同じ範疇の技術であるとして共通する考え方を基礎にして扱えば,設計上の相互乗り入れが可能になるなど利点が多いと思われる。
第1章は基礎事項であり,電波伝搬,層構造の取り扱い方法と等価回路,斜め入射,吸収/遮蔽材料,人工誘電体などを述べ,続いて透過材設計法,電波吸収体設計法,遮蔽材設計法の基礎
を述べた。
第2章では,車載ミリ波レーダについて,レーダシステムやデバイスなどの最近の技術開発動向をまとめた。
第3章では透過材の材料開発,設計技術についてまとめた。自動車前方監視レーダは,エンブレムの直ぐ背後にある。エンブレムの全透過設計について,最新技術をまとめた。
第4章ではミリ波帯電波吸収体,遮蔽材の研究開発動向,実用化動向などをまとめた。自動車レーダ周囲に用いる吸収体や遮蔽材であっても周囲から飛来する不要電磁波は広い周波数成分を含むことを考慮し,マイクロ波帯からミリ波に渡る広い周波数帯で研究開発動向をまとめた。
本書が,この分野に携わる技術者,研究者の方々にとって,何らかのご参考になれば幸いである。
2020年3月
EMCプラザ代表,兵庫県立大学名誉教授
畠山賢一
著者一覧
梶原昭博 北九州市立大学
大橋洋二 富士通㈱
天野義久 ミネベアミツミグループ ㈱ユーシン
徳満恒雄
久保田 幹 住友電工デバイス・イノベーション㈱
渡邊充広 関東学院大学
藤本信貴 住友精化㈱
桑原純平 筑波大学
神原貴樹 筑波大学
鈴木洋介 キーコム㈱
上村一之 タクボエンジニアリング㈱
日高貴志夫 山形大学
大越慎一 東京大学
生井飛鳥 東京大学
栗原 弘 TDK㈱
大沢 茂 CRFE・E&Cエンジニアリング㈱
齋藤章彦 大同特殊鋼㈱
長野利昭 関西ペイント㈱
鈴木邦夫 テイカ㈱
前田益利 ㈱ウイセラ
伊藤盛通 (地独)大阪産業技術研究所
山本真一郎 兵庫県立大学
目次 + クリックで目次を表示
1 電波伝搬の基礎
1.1 自由空間における電波伝搬
1.2 自由空間以外の媒質内における電波伝搬
2 層構造の取り扱い
2.1 層構造と伝送線路,基本行列
2.2 入力インピーダンス,反射係数,透過係数
2.3 多層構造の取り扱い
2.4 斜め入射の取り扱い
2.4.1 無限媒質への斜め入射
2.4.2 層構造への斜め入射
3 ミリ波帯透過材,電波吸収体,電磁遮蔽材の材料
3.1 誘電体,磁性体,導電材
3.2 人工誘電体
3.2.1 高誘電率特性
3.2.2 誘電率の共鳴分散特性
3.2.3 誘電率が負になる特性
4 透過材の設計基礎
4.1 層構造の基礎行列
4.2 全透過条件と全透過構造
4.3 全透過構造の構成例
4.3.1 誘電体単層構造への垂直入射
4.3.2 誘電体単層構造への斜め入射
4.3.3 高誘電率シートの全透過構造例
4.3.4 全透過周波数帯の広帯域化
4.3.5 反射の大きい誘電体層を全透過に修正する例
5 電波吸収体の設計基礎
5.1 各種の電波吸収体
5.2 単層構造電波吸収体
5.2.1 1/4波長厚みの損失材を用いる電波吸収体
5.2.2 無限厚み損失材をもとにした電波吸収体
5.3 2層構造電波吸収体
5.3.1 損失材を2層重ねた電波吸収体
5.3.2 抵抗膜を用いた電波吸収体
5.3.3 無損失誘電体と損失材を積層した電波吸収体
5.3.4 誘電率共鳴分散材と損失材を積層した電波吸収体
5.3.5 高誘電率材と損失材を積層した電波吸収体
6 電磁遮蔽材の設計基礎
6.1 電子機器筐体の電磁遮蔽
6.2 各種遮蔽材の等価回路,遮蔽特性
6.2.1 導電材を用いる遮蔽材
6.2.2 金属格子,周期穴金属板を用いる遮蔽材
6.2.3 チョーク回路を用いる遮蔽材
6.2.4 カットオフ現象を利用した遮蔽材
第2章 車載ミリ波レーダーの技術動向
1 ミリ波レーダ技術の基礎と自動車分野への応用
1.1 はじめに
1.2 レーダ技術
1.2.1 レーダ技術の基礎
1.2.2 レーダの基本性能
1.3 車載用ミリ波レーダ技術
1.3.1 前方・周辺監視レーダ
1.3.2 車載レーダの高度化
1.4 車室内監視技術
2 車載用76G/79GHzミリ波レーダー
3 車載ミリ波レーダの最新動向
3.1 はじめに
3.2 ミリ波レーダ自体に起きている変化(回路・システム)と,材料への要求の考察
3.2.1 CMOSワンチップ化が,ミリ波レーダの画像化をもたらした
3.2.2 人工知能が,画像データの利用価値を高めた
3.2.3 「画像」の分解能を向上する方法
3.2.4 「画像」と「人工知能」の時代に向けた,全周レーダシステムの試作例
3.2.5 「画像」の観点から「材料」研究へ求められる方向性
3.3 最大市場である車業界自体に起きている変化と,材料への要求の考察
3.3.1 はじめに
3.3.2 車体の樹脂化の影響
3.3.3 車室内センシングの影響
3.3.4 5G(第5世代)スマホとメタマテリアルの影響
3.3.5 グリーンスローモビリティ普及の影響
3.4 車業界からも離れミリ波レーダの新しい応用例(農業)を紹介
4 3次元WLCSPを利用したGaAsミリ波デバイス
4.1 諸言
4.2 3次元WLCSP技術
4.3 3-D WLCSP対応の設計技術
4.3.1 増幅器
4.3.2 周波数逓倍器
4.3.3 周波数変換器
4.4 他技術に対する優位性
4.5 結言
第3章 ミリ波透過材の材料と実用化技術
1 ミリ波透過可能なめっき皮膜の開発とエンブレムへの応用
1.1 はじめに
1.2 金属皮膜によるミリ波透過の概要
1.3 無電解めっき法による電波透過金属皮膜
1.3.1 選択めっき工法による海島状金属膜の形成
1.3.2 樹脂成形体への電波透過めっき皮膜の成膜
1.4 まとめ及び応用展開
2 金属調光沢を与えるフィルム・コーティング材料の開発と電磁波透過性
2.1 はじめに
2.2 金属光沢を持つ有機材料
2.2.1 π共役系チオフェン-ピロール系有機化合物
2.2.2 アゾベンゼン基を有する有機化合物
2.2.3 チオフェン系オリゴマー
2.3 金属光沢を持つ含色素ポリアニリン類縁体
2.3.1 含色素ポリアニリン類縁体の合成
2.3.2 特性
2.4 その他の色素ポリマー
2.5 おわりに
3 自動車用ミリ波レーダーを支える表面処理技術
3.1 はじめに
3.2 レドームやカバーの最適厚さ,反射防止膜の設計法およびその評価法
3.2.1 最適厚さ
3.2.2 反射防止膜の最適化
3.2.3 評価法
3.3 エンブレムの構造と評価法
3.3.1 電波が透過する金属皮膜
3.3.2 電波透過性の試験
3.4 レーダーを囲む材料の電波吸収とその評価法
3.4.1 試作シートの複素誘電率測定
3.4.2 電波吸収率の測定
3.5 別な電波吸収法とその測定法
3.6 撥水処理法
3.7 親水化処理法
3.8 まとめ
4 インクジェットによる金属密着と加飾技術によるミリ波レーダーのデモンストレーションエンブレム(及びDot Jet Liner方式の紹介)
4.1 はじめに
4.2 デモンストレーション エンブレムの外観
4.3 デモンストレーション エンブレムの構造
4.4 光を透過させる構造
4.5 光を遮蔽させる構造とグラデーション
4.6 金属密着の技術とシステムのあり方
4.7 金属用UVインクジェットプライマーの延伸性について
4.8 金属用UVインクジェットプライマーの工程
4.9 インライン加飾システム
4.10 オールUVインクジェットの懸念とDot Jet Linerの目的
4.11 最後に
第4章 ミリ波吸収・遮蔽材の材料と実用化技術
1 ミリ波吸収メカニズムとその材料設計への適用
1.1 要旨
1.2 はじめに
1.3 ネットワークアナライザ
1.3.1 空洞共振法
1.3.2 マイクロストリップライン法
1.3.3 同軸管法
1.3.4 自由空間法
1.4 その他の評価法
1.5 ミリ波吸収・遮蔽材料の設計法
1.5.1 導電材料の設計
1.5.2 磁性材料の設計
1.5.3 誘電材料の設計
1.6 おわりに
2 先進運転支援システム用140GHz広帯域ミリ波吸収体
2.1 はじめに
2.2 共置換型-イプシロン酸化鉄ε-(TiⅣCoⅡ)xFeⅢ2-2xO3
2.2.1 合成
2.2.2 構造と磁気特性
2.3 ミリ波吸収性能
2.3.1 ミリ波吸収測定
2.3.2 ADAS用140GHz帯域位相整合
2.4 まとめ
3 ミリ波帯電波吸収体の設計と応用
3.1 磁性材料を適用したミリ波帯電波吸収体
3.2 抵抗被膜を適用したミリ波帯電波吸収体
3.3 誘電損失材料を適用したミリ波帯サブミリ波帯電波吸収体
4 ミリ波電波吸収体の設計と実用化技術
4.1 はじめに
4.2 現状のピラミダル吸収体の性能
4.3 ピラミダル電波吸収体のミリ波帯における性能改善
4.3.1 電波吸収体の最適なアスペクト比
4.3.2 吸収性能を測定した吸収体のアスペクト比D/W
4.3.3 吸収性能が50dBに達しない原因
4.3.4 吸収性能が50dBに達しない他の理由
4.4 ミリ波の吸収性能が特に優れるECP-3
4.5 その他の吸収体
5 電磁波吸収・ノイズ抑制シートの設計と最新動向
5.1 開発の背景
5.2 電波吸収体の設計技術「高周波増幅器内の不要な電磁波結合問題及び検証実験」
5.3 電波吸収体以外の主な対策と設計
5.3.1 筐体の小型化
5.3.2 電子基板PCB(Printed Circuit Board)の薄厚化
5.3.3 電子基板PCB(Printed Circuit Board)の多層化
5.3.4 電波吸収体による不要な電磁波結合対策
5.4 電磁波吸収体の設計
5.5 電磁波吸収ゴムシートの最適設計
5.6 ミリ波レーダー用電波吸収体の開発例
5.7 まとめ
6 ミリ波用電波吸収体
6.1 はじめに
6.2 シート型電波吸収体および電波吸収塗料の特徴
6.3 79GHz帯ミリ波用シート型電波吸収体の設計
6.3.1 電波吸収体の膜厚変動とピーク周波数の関係
6.3.2 電波吸収体の構成と作製方法
6.3.3 測定系
6.3.4 各層のインピーダンス特性と材料特性
6.3.5 伝送線路理論を用いた電波吸収体の計算
6.3.6 シミュレーション結果と測定した吸収特性の比較
6.4 膜厚変動による吸収特性の変化
6.5 電波吸収体の意匠性と耐久性
6.6 まとめ
7 ミリ波吸収シート
7.1 はじめに
7.2 繊維への導電処理技術
7.3 導電繊維を用いた電波吸収シートの設計
7.4 ミリ波電波吸収シート
7.5 おわりに
8 ミリ波電波吸収セラミックス
8.1 はじめに
8.2 設計理論
8.3 アルミナでの設計,測定
8.4 材料選択
8.4.1 電波吸収体の厚み
8.4.2 その他の物理特性
8.5 おわりに
9 メタマテリアルを用いた反射透過制御素子
9.1 無線利用機器の広がりとミリ波の発展
9.2 ミリ波の時代に向けた無線利用
9.2.1 電磁環境の変化と電磁両立性(EMC)
9.2.2 反射透過制御素子の必要性
9.3 メタマテリアル
9.3.1 メタマテリアルとは
9.3.2 メタマテリアルの機能
9.3.3 ミリ波帯域でのメタマテリアル
9.4 メタマテリアルによる反射・透過制御素子の実証例
9.4.1 ブロードサイド結合型スプリットリング共振器配列試料
9.4.2 反射・透過係数測定
9.4.3 透過係数と反射係数の測定結果
9.4.4 伝搬定数と特性インピーダンスの導出結果
9.4.5 伝送線路理論に基づく解析と特性の操作
9.4.6 測定結果と計算値との比較
9.5 まとめ
10 電波吸収体,遮蔽材,透過材のミリ波特性の評価法
10.1 電波吸収体評価装置・評価法
10.1.1 垂直入射時の反射係数測定例
10.1.2 斜め入射時の反射係数測定例
10.2 遮蔽材評価装置・評価法
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